清水克行『耳鼻削ぎの日本史』

日本ではかつて耳や鼻を削ぐという行為が行われていた。
このショッキングな言説を、信頼できる史料をもとに
検証した本です。

読後感は、阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男』などに近かったです。

「史料の解釈に現代的な感覚を持ち込むと、
史実の評価を大きく誤ってしまうことになる」(P.72)
という指摘や、耳鼻削ぎや「耳なし芳一」などには
「中世社会のシンボリズム」としての
耳や鼻が表れているという主張(P.93)
には得心しました。

いっぽうで、源賴義のエピソードの記述(P.99)には、
昔でも現代と共通する、耳鼻削ぎは「グロテスク」
な感覚が感じられます。
このあたり、巻末近くで述べられている現代アフガニスタンの
タリバーンについての話(P.206)でもそうですが、
あえて残虐さをアピールするという感覚がありそうです。

また、中世までの社会で刑罰のひとつとしておこなわれていた
耳鼻削ぎと、戦国時代以降の耳鼻削ぎには大きな断絶があるように
思います。

豊臣秀吉や近世初期幕藩下でおこなわれた耳鼻削ぎは、
戦国時代以降に新たに構築された法体系の一部ではないか。
そんな仮説も頭に浮かんでいました。

論点はいろいろありますが、知的好奇心を満たすことができる、
興味深い新書です。
また、史料の扱い方・読み方について学ぶべき点が多いでしょう。